こんにちは、だんです。
はじめに
音声を生産する発声、ならびにことばを生成する発語(構音)では、中枢神経の制御のもとに抹消器官である肺、喉頭、口腔・咽頭・喉頭において、それぞれ呼気調節、喉頭調節、構音が行われる。そして発せられた音声言語は、聴器と中枢への聴覚路により受容、伝搬され、さらに言語中枢により言語の理解とそれに応答する発語が促され、スピーチチェーンが成立する。
肺、器官・気管支、呼吸筋〜呼気の生成と調節を行う器官
呼吸は人のエネルギー代謝・生命活動に必要な酸素を取り入れ、二酸化炭素を排出する重要な機能であり、さらに発声においては肺から呼気流が音声生成のエネルギーとなる。
肺は左右1対あり、右肺は上・中・下の3葉、左肺は上・下の2葉からなる、肺にはガス交換を行う肺胞が約3億個あり、その総表面は60平方メートルに及ぶ、肺胞は肺胞管により呼吸細気管支につながり、さらに末梢側から細気管支、区域気管支、葉気管支、左右の主気管支、気管と合流を重ねる。ここまでが下気道であり、喉頭、さらに咽頭、鼻腔の順に上気道に連続する。
肺胞では拡散、すなわち高濃度から低濃度に気体や液体が移動する減少により、酸素が肺胞気から肺毛細血管側へ、二酸化炭素が肺毛細血管から肺胞気側に移動するガス交換が行われる。胸郭内容積を減少させて肺胞気を体外に出す呼息、ならびに胸郭内容積を増加させて体外の空気を肺胞に取り込む吸息の際に働く筋が呼吸筋であり、胸郭の筋、横隔膜、腹壁の筋からなる。
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肺には呼吸運動により、一回換気量、吸気予備量、呼気予備量、残気量の4つの容積があり、呼吸機能検査(スパイロメトリー)で測定される。このうち前3者を加えた量が肺活量であり、呼出し得る最大の空気量に相当する。年齢・身長・性別により予測肺活量に対して実測の肺活量の占める割合を%肺活量(%VC)という。また、最大吸気位から思い切り吐ききるときに、最大吸気位から最初の1秒間に吐き出した空気の量を1秒量(FEV1.0)といい、1秒率を肺活量で除した値を1秒率(FEV1.0%)という。%肺活量、1秒率は呼吸機能障害の指標となるとともに音声機能に影響する。
呼吸運動は自立運動であり、延髄にある吸気中枢、呼気中枢、自発的なリズムを生成するPre-Bötzinger複合体、ならびに橋にある呼吸調節中枢、無呼吸中枢がその調節を担っている。安静時には1分間あたり15回程度の呼吸が行われ、これに動脈血液中の酸素濃度、二酸化炭素濃度、pHの変化による科学的調節や、気道刺激、毛細血管圧、肺の拡張を反映する神経性調節が加わる。
一方で発声時の呼吸もまた、大脳で随意的に制御される発声行動に合わせて延髄の呼吸中枢により調節されるが、この際に自発呼吸は制御され、リズムは一定ではなく、吸気に比して呼気が長くなる。音声の強弱、高低、発声方法により呼気が調整され、強い声や高音の声では呼気圧が高くなる。持続発声は100〜200ml/秒の呼気量を必要とし、日本人の最大発声持続時間は男性で約30秒、女性で約20秒である。
喉頭〜音声の生成と調整を行う器官
喉頭は硬組織による枠組みをもつ中空の器官であり、その内側には、前方を頂点として左右から張り出すヒダが2つ、口側の喉頭前提ヒダ(仮声帯)と気管側の声帯がある。このヒダを堺に喉頭の内腔は口側から順に喉頭前提、喉頭室、声門下腔に分けられる。喉頭の枠組は舌骨、甲状軟骨、輪状軟骨、披裂軟骨で形成され、軟骨間は間接(輪状甲状関節、輪状被裂関節)で連結されている。
声帯は前方で甲状軟骨角、後方で被裂軟骨声帯突起に付着する。内喉頭筋の働きで披裂軟骨の位置が変化することにより声帯靭帯が外転、内転し、声門裂を開閉する。
左右声帯の間の声門は、深吸気時に声帯の外転により開大し、発声時や嚥下咽頭期に声帯の内転により閉鎖する、発声時には、閉鎖した声門が気管からの呼気流の力で開き、気流の通過により生じるベルヌーイ効果の陰圧と声帯縁の弾性による復元力で閉じることにより、開閉を反復して気流が断続する。この声帯粘膜の振動と一致した呼気の断続流により粗密波が生じ、音声の原音が作られる。
発声の際に振動体として働く声帯は、表面から順に、粘膜上皮、粘膜固有層(浅層・中間層・深層)、筋層の層構造をなす。粘膜固有層の深層の浅層が疎な結合組織、中間層が主として弾性線維からなり、それぞれだんせいに富むことに対し、深層は密な膠原線維を含み筋層とともに声帯の剛性を担っている。呼気圧に見合った声帯の剛性と規則的な声帯振動を可能とする弾力性が、声帯で発せられる喉頭音源の生成に重要である。
口腔、咽頭、鼻腔〜共鳴腔となり、構音にはたらく器官
喉頭原音は口腔、咽頭、鼻腔からなる声道で共鳴し、破擦、摩擦などの雑音成分が加わり、音韻を伴う言語音となる。この言語音を作る動作は構音と呼ばれ、口腔、咽頭、鼻腔領域の各器官の運動を調節して共鳴と気流を操作する。構音器官には、下顎、口唇、舌、軟口蓋、咽頭壁がある。一方で、原音を作る喉頭もまた、気流操作をする点では構音器官と考えられる。
下顎は顎関節を支点として動き、口を開閉する調節を担い、「あ」では大きく開き、「い」、「う」では小さく開くなど、母音の性質を決める作用がある。下顎に着く筋で、開口には舌骨上筋群である顎二腹筋、顎舌骨筋、オトガイ舌骨筋と外側翼突筋が、閉口には咬筋、側頭筋、内側翼突筋が働く。
口唇は言語音が出る場所に位置し、3つの動作で構音にはたらく。第一に口唇の開閉で上下方向の幅を変化し、第二に丸めと引き伸ばしで水平方向の幅を変化し、第三に突出と口すぼめで前後方向にその形を変化する。口輪筋を始めとした顔面の表情筋により運動する。
舌はその形状変化と運動により構音に働く。舌を構成する内舌筋には上縦舌筋、下縦舌筋、横舌筋、垂直舌筋の4つがあり、いずれも舌内に起始・停止し、舌体を縦横に変形し、また舌尖の微細な運動を可能とする。ゼツと隣接する器官に起始し舌内に停止する外舌筋にはオトガイ舌筋、舌骨舌筋、茎突舌筋、口蓋舌筋の4つがあり、舌苔の位置をそれぞれ前下方、下方、後方、後上方に移動する作用をもつ。内舌筋、外舌筋はともに骨格筋であり、口蓋舌筋が迷走神経の支配を受ける以外、他の筋は舌下神経の支配を受ける。
軟口蓋は口腔上壁の口蓋のうち後部の骨を欠く構造で、口蓋帆挙筋により後上方に挙上することで鼻咽腔を閉鎖し、鼻腔と口腔・咽頭の間を遮断する。この調節により鼻腔の共鳴が決まる。
聴器、聴覚路〜音声言語を受容し中枢に伝える器官
人の発した音声や言語音を受容する器官が聴器である。人の聴器は体外側から順に、外耳、中耳、内耳の部位に分けられる。外耳では集音器である耳介と共鳴器である外耳道により、音の振動が最深部の鼓膜に伝えられる。鼓膜の内側は中耳の鼓室であり、ここでは鼓膜から順に槌骨、砧骨、鐙骨の3つの耳小骨が連鎖し、鐙骨の底板は鼓室の内側に位置する卵巣窓を被う。
卵円窓(前庭窓)は内耳蝸牛の前庭階の最基部にあたり、ここに音刺激による振動が伝わると、蝸牛の前庭階と鼓室階の外リンパ液に振動を生じ、中央階と鼓室階の間に位置する基底板が振動する。蝸牛内で螺旋状に位置する基底板には音受容の感覚細胞である1列の内有毛細胞と3列の外有毛細胞を螺旋状に備えたコルチ器があり、基底板の振動により有毛細胞の頂面に位置するオルガンパイプ状の感覚毛が背の高い方向に変異すると、非選択性陽イオンチャンネルの開閉の頻度が増し、有毛細胞の脱分極による電気的興奮を生じ、シナプス結合する神経に信号が伝達される。求心性神経終末が 多く接合する内有毛細胞は音刺激による信号を蝸牛神経節に伝え、一方、遠心性神経終末が多く接合する外有毛細胞は興奮時に身長・短縮し、基底板振動を増幅する働きをもつ。この蝸牛の働きは機械電気変換と呼ばれる。
このような蝸牛での機械電気変換ののち、音刺激による信号は蝸牛神経により中枢に伝搬される。脳幹に達した信号は、中継核である蝸牛神経核、上オリーブ核、下丘を順に通過し、内側膝状体から聴放線を得て、側頭葉の上側頭回、横側頭回に位置する一次聴覚野に至る。一次聴覚野はブロードマンの脳地図における41野と42野とおおよそ同一である。
言語中枢〜音声言語を理解し、出力する器官
言語中枢は、言語音や文字で書かれた言葉を理解し、自分の伝えたいことを言葉や文字で表現する、言語機能を司る場所であり、右利きのヒトの大部分、また左利きの人の三分の二では、左大脳半球シルビウス溝を挟む周囲に位置する。聴覚で受容した言語の意味を理解する感覚性言語中枢(ウェルニッケ中枢)は側頭葉の上側頭回後頭部にあり、ブロードマンの脳地図における22野に位置する。音声言語の理解に関する働きから、一次聴覚野との接続が示唆されている。
このウェルニッケ中枢から弓状束を介して連絡する運動性言語中枢(ブローカ中枢)は大脳皮質運動野下端の前方に近接した下前頭回後方にあり、ブロードマンの脳地図における44野と45野に位置する。ブローカ中枢は、ウェルニッケ中枢から受けた言語情報を処理して、意識内容に対応する言葉を発声するために、発声器官、構音器官の運動を調節する大脳皮質運動野に信号を伝搬する。さらに、言語活動はまた精神活動と密接な関係にあり、脳全体の精神活動とも考えられる。
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